認知症徘徊者による列車事故と家族の責任~最高裁判断へ



認知症の方が徘徊し、電車に跳ねられた事故に関し、認知症方の家族がJR東海から損害賠償を請求されていた事案に関し、1審、2審とも、家族側の責任を認めていたのですが、この件に関して、最高裁で、弁論が開かれることになりました。 

最高裁で、原判決(2審判決)が維持される場合、通常、当事者の出頭はなく書面だけで審理されるのですが、今回弁論が開かれるということは、2審判決に何らかの変更を加えることとなる可能性が高いといえます。 

1審、2審とも、家族の協力扶助義務(民法752条)を根拠に、家族側の責任を認めたものですが、この結論は認知症の方を抱える家族に極めて重い責任を課すもので、非常に問題のある結論でした。

 最近別件で、同様に認知症の方が火災を発生させ、同居の家族が責任を問われたケースがありましたが、これは、1審では家族の責任を認めたものの、控訴審では、責任がないことを前提とする和解が成立し、終了しています(この件に関しては、当ブログの記事をご参照ください)。 

おそらく、高裁以上の裁判所レベルでは、民法752条を根拠に家族に重い責任を負わせることには否定的な立場であるものと思われ、今回のJRのケースも、火災のケースと同様、原則責任を問わない方向での判断がなされるものと考えられます。 

常識的な結論に収まるように、最高裁の判断に注視していきたいと思います。 

以下、朝日新聞デジタル2015年11月10日記事より引用

 認知症で家を出て徘徊(はいかい)中に列車にはねられて死亡した愛知県大府市の男性(当時91)の遺族に対し、JR東海が約720万円の損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第三小法廷(岡部喜代子裁判長)は10日、当事者の意見を聞く弁論を来年2月2日に開くことを決めた。

 二審の結論を変える際に必要な弁論が開かれることから、男性の妻の監督義務を認めて約360万円の支払いを命じた二審判決が、何らかの形で見直される公算が大きい。弁論を経て、判決は早ければ年度内にも言い渡される。第三小法廷は、責任能力がない人が起こした不法行為に、親族の監督義務がどこまで及ぶのかについて、判断を示すとみられる。

 「要介護度4」と認定されていた男性は2007年12月、徘徊中に愛知県内のJR東海道線共和駅の構内で列車にはねられて死亡した。訴訟では、男性と同居していた事故当時85歳の妻と、横浜市に住む男性の長男の2人に、男性を見守る監督義務があったかが争点となった。

 13年8月の一審・名古屋地裁判決は、男性を見守ることを怠った妻の過失のほか、長男にも監督義務があったと認め、JR東海の請求通り約720万円の支払いを2人に命じた。一方、昨年4月の二審・名古屋高裁判決は、妻の監督義務を認めた上で、賠償額については約360万円に減額した。長男に対する請求は退けた。

 この判決に対し、妻とJR東海の双方が上告していた。(河原田慎一)

このページの先頭へ