GPS捜査の違法性(平成27年12月24日名古屋地裁判決)



警察が、捜査対象者の車両に無断でGPS装置を設置し、位置情報を把握するという捜査方法が違法か否かについて、名古屋地裁は、平成27年12月24日、違法という判断をしました。

 同様の争点は、昨年大阪地裁でも争われており、大阪地裁は、GPSを用いた捜査方法について、「重大な違法」があるとし、その結果得られた証拠の多くを排除しました。しかし、違法捜査が行われたことが量刑に影響するか否かについては、「本件以前にはGPSを使用した捜査を違法と判断した裁判例は見あたらないことをも考慮すれば、今後もこのような違法捜査が続けられれば別論、現時点では、証拠調べ請求の却下に加えて、本件GPS捜査の違法を理由に、被告人に対する量刑を軽くすることが正義や公平に適うとは言い難い。」として、結局、当該事件での量刑への考慮は否定しました(参照記事)。

 

今回の名古屋地裁判決は、新聞報道(朝日新聞2016.1.15)によると、「判決は、位置情報を正確に把握できるGPS捜査を県警はいつまで続けるかも決めておらず、長期にわたるプライバシー侵害の恐れがあったと指摘。『任意の捜査として許される尾行とは質的に異なる』と批判し、令状のないGPS捜査は違法とした。事件当時はこうした司法判断がなかった点を考慮し、被告側が求めた捜査資料の証拠排除は認めなかった。」とのことです。 

 すなわち、結論としては、GPSを用いた捜査は違法であるとしたものの、証拠としての能力は認めたこととなります。

 

 

適法性

証拠能力

大阪地裁

×

×

名古屋地裁

×

 大阪地裁判決と名古屋地裁判決は、証拠能力を否定(大阪地裁)したか、認めた(名古屋地裁)か、という点が異なりますが、いずれの事件もGPS捜査によって得られた以外の証拠から有罪認定が可能なケースです。

いずれの判決でも、①GPSによって得られた以外の証拠から有罪認定がされていること、②捜査の違法性を量刑上考慮していないこと、③いずれの判決も、捜査当時司法判断が存在しなかったことを理由とする現時点での判断であること(将来的には証拠排除・量刑への考慮も含めたより厳しい判断がなされることを示唆していること)、において共通していることから、実質的にはほぼ同じ判断だといえるでしょう。

 

大阪ケース、名古屋ケースのいずれも、高等裁判所で争われているようです。

私見ですが、プライバシーに対する意識は、特に平成17年に個人情報保護法が施行されてから急激に高まっています。自分の自動車にGPSが設置され、相当詳細に捜査機関に位置情報を把握され、データを保存されるということについては、多くの方にとって強い抵抗があると思います。このような捜査手法は、捜査機関が自由になしうるのではなく、裁判所による規制がなされるのが不可欠と考えざるを得ないと思います。

捜査機関は、これを公道での尾行と同程度のプライバシー侵害であると捉えているようですが、捜査機関の想定するプライバシー権と、一般国民の考えるプライバシー意識との間に大きな乖離があると思います。

いずれにしても、高裁の判断が注目されます。

 

なお、大阪のケースは、判決の前に裁判所が証拠能力に関する「決定」を出し、その「決定」の中で捜査の違法を述べているのに対し、名古屋のケースは、すでに法廷で証拠として取り調べた後(=いったん証拠能力を認めた後)、判決の中で、捜査の違法性を述べています。

仮に、名古屋のケースで、今回と異なり、最終的に証拠能力を否定する判断をする場合どうするか。

 この場合、刑事訴訟規則207条により、裁判所は職権で証拠排除することとなります。否認事件の弁護する場合、この条文は覚えておいてください。

このページの先頭へ