薬物事犯での捜査・公判の注意点


一昨日、元プロ野球選手が覚せい剤取締法違反で逮捕されましたが、いくつか気になる点があったので、この点についてのべたいと思います。 

1 逮捕段階

報道によると、元プロ野球選手の場合、2月2日の午後8時頃に自宅に捜索が入り、午後11時台に覚せい剤「所持」罪で逮捕されています。覚せい剤自己使用犯の場合、一般的に、①覚せい剤所持罪、②覚せい剤使用罪、の2つの犯罪が成立するケースが多いのですが、最初は、「所持」罪で逮捕されるケースが大部分です。覚せい剤所持罪は、被疑者の支配領域内に覚せい剤が客観的に存在すれば逮捕に至ることが可能です。

それに対して、使用罪での逮捕のためには、被疑者が覚せい剤を使用した事実の存在が必要です。そのためには、被疑者の体内から覚せい剤の成分が検出される必要があります。被疑者の体内から覚せい剤を検出する捜査方法として、尿検査や血液検査がありますが、これらは基本的に任意捜査であり被疑者の承諾がないとできないものです。

したがって、立証の容易さから、まず覚せい剤所持罪で逮捕されるのが一般的になります。

なお、警察は今回、2月2日の午後8時に被疑者の自宅に捜索に訪れ、そこで覚せい剤が発見されています。これは、たまたま被疑者が自宅にいた、というわけではなく、また、たまたま覚せい剤が発見された、というわけでもありません。

警察は、相当程度以前から被疑者が覚せい剤事犯に関与している情報をもっており、一定の証拠を入手し(通常は、被疑者に覚せい剤を売った側の供述や記録など)、それをもとに裁判所から捜索差押令状の発令を受け、捜索に着手しています。つまり、「被疑者が覚せい剤を所持している」事実を推認させる証拠を一定程度捜査機関は持っています。さらに、覚せい剤事犯の場合、それなりの期間、尾行などの方法により、被疑者の身辺を監視します。覚せい剤の中毒者の場合、覚せい剤の薬理作用が切れると、監視があるとわかっていたとしても、覚せい剤を入手したい衝動が強いため、購入を行う可能性が高く、尾行等の効果はあります。今回のケースも、直前の購入から捜査機関の監視下にあったものと思われます。

なお、自宅に覚せい剤が存在した場合で、同居者がいた場合、その同居者も覚せい剤の存在を認識していたと認められるような場合、その同居者も「共同所持」として逮捕されるのが一般です。今回はそのような事情はなかったと思われます。

 

2 勾留段階

 2月2日の午後11時頃に逮捕に至っていますが、このケースでは2日後の2月4日に送検され、同日から10日間勾留されることとなります。

 その間、使用罪の有無を調べるため、任意の採尿が行われます。任意の採尿に応じなかった場合、既に自宅から覚せい剤が見つかっている事実を根拠に、強制的に採尿あるいは採血が行われます。使用を認めている場合、通常は任意の採尿に応じることが多いです。

 

 なお、覚せい剤事犯の場合、①捜索→②逮捕→③採尿、という過程で違法捜査が行われる場合が多いです(職務質問の限度を超えた違法な留め置き、任意の所持品検査の限界を超えたような捜索、本人の意思に反する採尿など)。このような捜査の初動段階で重大な違法捜査があった場合、最終的に無罪になる場合もあります。方に則った適正な手続がなされる必要がありますし、弁護人としても捜査の過程のチェックが不可欠です。

もっとも、今回のような有名人のケースでは、マスコミの監視の中での捜査でもあり、また、相当刑事事件に強い弁護士が付く可能性が高いため、捜査側も慎重に行います。

 

3 勾留延長

 勾留は10日間ですが、やむを得ない事由がある場合、さらに10日間の勾留延長がされる可能性があります。

 現在は2月2日の夜に覚せい剤を「所持」していた、との事実に基づく勾留であり、同罪での立件に必要な事情は、当該「所持」に関する事実(2月2日に所持していた覚せい剤をいつどこで入手したのかという点)のほか、①覚せい剤を使用し始めた時期、②動機、③使用頻度、などの点ですが、「所持」罪と「使用」罪とは密接な関係にあります。

 ですので、捜査の方法としては、10日間勾留を延長し、合計20日の間で所持と使用に関する捜査を行い、まとめて起訴する、という方法があります。

あるいは、「所持」は独立して立件し、その後、「使用」罪に関して再逮捕して勾留を行う、という方法もあります。覚せい剤事犯において、捜査機関の関心は、入手ルートを含む背後関係であり、この点を十分な時間をかけて捜査したいと考えているので、できるだけ捜査を長く行いたいと考えるところです。最も長く捜査する方法としては、それぞれ独立して立件する前提で、「所持」で20日間、「使用」で20日間捜査する方法ですが、今回のケースではここまでは認められないでしょう。

所持と使用を合わせて20日間勾留されるか、よほど特段の事情があればプラス10日を限度とした延長が認められる、という程度だと思います。

 

4 起訴後

 所持罪、使用罪のいずれもが起訴された場合、他に余罪がない限りはこれで捜査は終了します。

 捜査が終了すると保釈が可能となり(厳密にいうと、所持、使用それぞれの罪について「起訴」された段階で保釈は可能ですが、捜査が終了していなければ捜査中の犯罪で再勾留されます)、裁判所にお金を預けることによって裁判が終わるまで自宅等で生活できるようになります。

 そこから裁判に向けて準備をしていくことになりますが、覚せい剤事犯の場合、事実関係を認めるのであれば、最も重要なのは再犯の防止(二度と覚せい剤に手を出さないようにすること)です。

 先にも述べましたが、覚せい剤の場合は、他の薬物と比較しても中毒性が強いため、自分の意思だけでやめるのは本当に困難です。

 覚せい剤に手を出すきっかけとなった環境を改めることや、専門医やNPO団体の助力を得ることなどが重要になってきます。

 いろいろと報道されていますように、今回は初犯であり執行猶予が付くことはほぼ確実と思われますが、裁判の結果よりも、被告人の人生を立て直すことの方が余程大事なことです。

本人、家族ほか、弁護人が一丸となって、人生の立て直しに向けて取り組んで頂きたいと思います。

 

 

 

 

 


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