刑事訴訟法の改正(2016年12月までに施行されるものを中心に)



去る通常国会で刑事訴訟法が改正されました。

 うち、①司法取引の導入と②被疑者国選を全勾留被疑者に拡大は2018年6月までに、③取調べの全過程の録音録画制度の導入は2019年3月までに、それぞれ施行されることになっています。
 これらは現在の刑事訴訟を大きく変え得るものですが(もっとも個人的には①の司法取引はあまり利用されないと思っています)、施行までまだしばらく時間があります。

 しかし、今年の12月までに施行されるもので、刑事弁護の手法に大きく影響するものがいくつかあります。特に検察官手持ちの証拠を弁護側が入手する手段が拡大されたので、この点を中心に説明しようと思います。

 ※追記 司法取引に関しては、こちらのページに記載しましたのでご参照ください。

証拠一覧表の交付

法316条の14
Ⅱ 検察官は、前項の規定による証拠の開示(注:検察官請求証拠の開示)をした後、被告人又は弁護人から請求があったときは、速やかに、被告人又は弁護人に対し、検察官が保管する証拠の一覧表の交付をしなければならない。
Ⅲ 前項の一覧表には、次の各号に掲げる証拠の区分に応じ、証拠ごとに、当該各号に定める事項を記載しなければならない。
① 証拠物 品名及び数量
② 供述を録取した書面で供述者の署名又は押印のあるもの
    当該書面の標目、作成の年月日及び供述者の氏名
③ 証拠書類(前号に掲げるものを除く)
    当該証拠書類の標目、作成の年月日及び作成者の氏名

ポイント
  1. 証拠一覧表が交付されるのは、弁護人からの請求があったときのみです。弁護側から積極的に交付請求をしなければなりません。
  2. 請求のタイミングは、「検察官請求証拠が開示された後」です。条文上特に制約はないので、検察官請求証拠が開示された後であればどのタイミングでも可能です。期日間整理手続でも準用されています(316条の28)。
  3. 「検察官が保管する証拠」のみが一覧表に記載されます。したがって、警察が入手しているが検察官に送致されていない証拠については、証拠一覧表には記載されないので、証拠の存否について求釈明により検察官に調査及び回答を求め、もし存在すればさらなる求釈明により内容を特定の上、任意開示か類型証拠開示を請求する必要があるでしょう。
  4. 3号の供述調書以外の証拠書類については、逮捕手続書、実況見分調書、写真撮影報告書、車検証、戸籍謄本、判決等のほか、報告書(捜査報告書)も含まれます。捜査報告書は表題からは内容が判然としない場合が多いので、求釈明等を適宜行う必要があるでしょう。
  5. 現代では比較的重要な証拠が捜査報告書として作成されることが多くあります。防犯カメラ等の解析結果、録音音声の解析結果、メールやラインなどの通信履歴、電話の通話履歴等のほか、燃焼実験や再現実験も報告書という形式で作成されるケースもあります。このあたりは意識して求釈明等を行う必要があります。
  6. また、後述のように通信傍受の範囲が拡大され大部分の事件が傍受の対象とされていますので、特に共犯事件の場合はこれも念頭に置いておくべきでしょう。
  7. 証拠一覧表の交付は、あくまで証拠開示の一助となるものにすぎず、交付を待って任意の証拠開示を行う必要はありません。検察官請求証拠が開示されたら、一覧表交付請求と任意の証拠開示請求(及び求釈明)を並行して行い、一覧表が交付されたのちに漏れ落ちがあれば追加の証拠開示請求(ないしは求釈明)をする、という方法を取るべきでしょう。

公判前整理手続請求権の付与(316条の2第1項)

316条の2Ⅰ
 裁判所は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため必要があると認めるときは、検察官、被告人もしくは弁護人の請求により又は職権で、・・・事件を公判前整理手続に付することができる。

ポイント

 これまでは、検察官や弁護人には公判前整理手続の請求権はなく、あくまで裁判所が主体となって、検察官や弁護人の意見を聞いたうえで、公判前整理手続に付するか否かの決定をしていましたが、検察官及び弁護人に請求権が認められました。
 もっとも、公判前整理に付するか否かについては、これまで同様裁判所が裁量によって決することになります。裁判所の却下決定に対して、特別抗告を除いて不服申立はできません。却下決定に理由を付する必要もなく(法44条2項)、残念ながら、これまでの運用とさほど変わらないのではないかと思います(控訴理由に若干影響がある程度か)。

類型証拠開示の対象の拡大

類型証拠開示の対象として、以下のものが追加されました(316条の15Ⅰ⑧、⑨)。

  • ・共犯者の身体拘束中の取調べについての取調べ状況報告書
  • ・検察官が証拠調べ請求した証拠物に係る差押調書、領置調書
  • ・検察官が類型証拠として開示すべき証拠物に係る差押調書・領置調書

ポイント
これまで主張関連証拠としてしか開示されなかった共犯者の取調べ状況報告書が類型開示証拠の対象となったのは、共謀の有無を争う場合等で有益でしょう。これについても、まずは任意開示として請求すべきかと思います。

通信傍受の対象犯罪の拡大

 これまで通信傍受の対象犯罪は、①銃器犯罪、②薬物犯罪、③集団密航、④組織的殺人のみでしたが、以下のとおり対象が大幅に拡大します。
 要件としては、以下の罪に当たる行為が、「あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われるもの」に限る

新たに対象となった罪名

  • 爆発物使用、未遂
  • 現住建造物等放火、未遂
  • 傷害、傷害致死
  • 逮捕監禁、逮捕監禁致死傷
  • 未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐等
  • 窃盗強盗、強盗致死、未遂
  • 詐欺等、恐喝、未遂
  • 児童ポルノ等の不特定多数に対する提供等、提供等目的による製造等
ポイント
  1. 傷害、窃盗、強盗、詐欺が加わり、大部分の事件が対象となります。
  2. 要件として、「あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われるもの」という限定がありますが、共犯における共同意思主体説的な発想であり相当広く解釈される余地があります。令状裁判官次第では広く通信傍受令状が発布される可能性があることに注意が必要です。
  3. 弁護人としては、①通信傍受結果が罪体に関する証拠として使用された場合に違法収集証拠の可能性を検討する、②通信傍受結果が証拠請求されていない場合、弁号証として請求する、という形で関与することとなります。否認事件で罪体を争う証拠としての利用のほか、認め事件でも被告人の役割が量刑に影響する場合は利用を検討する余地があるでしょう。

他にも改正点がありますが細かいですので詳しく日弁連のパンフレットをご参照ください。
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/keijisoshohoto_kaisei_02.pdf

このページの先頭へ