無罪と補償(刑事補償、無罪費用補償)


はじめに

刑事訴訟で無罪判決を受けた場合、国に対して金銭の補償を請求することができます。補償は大別して、①刑事補償請求と、②費用補償請求の2種類です(なお、国家賠償請求訴訟という方法もありますがこれは訴訟であり性質が異なるので、ここでは省略します)。

刑事補償請求(刑事補償法)

内容

 刑事補償請求は、抑留又は拘禁された者が無罪の裁判を受けたときに、身柄拘束に関して補償を求めることができるものです。

 要件

 逮捕又は勾留された期間がある場合に限って請求できるもので、例えば在宅で捜査されたために逮捕勾留されなかった場合には請求することはできません。他方、無罪判決までの間に一部の期間でも逮捕又は勾留された期間があればよく逮捕のみで勾留がなされなかった場合や、途中で保釈により釈放された場合も補償の対象になります。

請求期間

 刑事補償法7条により、補償の請求は、無罪の裁判が確定した日から3年以内にしなければならない、とされています。
 ただし、通常は刑事補償請求をできる場合には、以下に述べる費用補償請求もできるのですが、費用補償請求の方は無罪判決が確定してから6か月以内に行わなければならないので(刑事訴訟法188条の3第2項)、費用補償請求と同時に行えばいいでしょう。
 なお、細かい話ですが、通常無罪判決が確定するのは判決言い渡しの後14日を経過してからですが、検察官が上訴権を放棄した場合は確定の日が早まるので、ぎりぎりの場合には注意が必要です。

補償金額

 一日あたり、「1,000円以上12,500円以下」の範囲内とされています(刑事補償法4条1項)。金額を決めるにあたっては、「拘束の種類及びその期間の長短、本人が受けた財産上の損失、得るはずであつた利益の喪失、精神上の苦痛及び身体上の損傷並びに警察、検察及び裁判の各機関の故意過失の有無その他一切の事情」が考慮されます(同2項)。

 もっとも、無実であるにもかかわらず身柄拘束されたことによって被る精神上の苦痛は大きく、また、刑事補償法制定後の物価の変動等に鑑みると1日あたりの補償金が1,000円などというのは時代にそぐわないと言わざるを得ません。被告人が否認しているにも関わらず検察官が起訴し、結果的に無罪となった場合、特段の事情がない限り検察官に落ち度があったと言わざるを得ません。
 したがって、原則として1日あたり12,500円の補償がなされるべきでしょう。私が過去に請求したケースも、全て1日あたり12,500円が認められています。
 逆に言うと、どれほど捜査機関に落ち度があり、また財産上の損失を受けたとしても、刑事補償としては12,500円が上限ですので、それ以上の請求をするためには国家賠償請求訴訟を提起する必要があります。しかしこれは刑事補償請求と比較して格段にハードルが上がるため、注意が必要です。

申立手続

 刑事補償請求書を、無罪判決を言い渡した裁判所に提出します(刑事補償法6条)。例えば、1審の地方裁判所で有罪、2審の高等裁判所で無罪となった場合、高等裁判所に対して請求を行います。

 なお、弁護士が代理人として請求を行う場合、別途委任状が必要です。委任事項としては、刑事補償の請求やそれに伴う手続だけでなく、補償金の受領権限も含めておいたほうがよいでしょう。

 刑事補償請求するにあたり、基本的には特に疎明資料等は必要ありません。①無罪判決が確定したことと、②身柄拘束を受けたこと、が刑事補償請求の要件ですが、どちらの事実も裁判所の訴訟記録により明らかですので、刑事補償請求時点で特に疎明不要です。 
 もっとも、上記のように、補償金の額は「拘束の種類及びその期間の長短、本人が受けた財産上の損失、得るはずであつた利益の喪失、精神上の苦痛及び身体上の損傷並びに警察、検察及び裁判の各機関の故意過失の有無その他一切の事情」を考慮して決することとなっています。これらのうち申立段階で特に指摘できる事情があれば申立書に記載の上、場合によっては疎明も必要かと思います。

費用補償請求

概要

 刑事訴訟法188条の2は、「無罪の判決が確定したときは、国は、当該事件の被告人であつた者に対し、その裁判に要した費用の補償をする。ただし、被告人であつた者の責めに帰すべき事由によつて生じた費用については、補償をしないことができる。」とされています。すなわち、無罪判決のために要した費用について、金銭的補償を請求するものです。

請求期間

 刑事訴訟法188条の3第2項により、無罪の判決が確定した後6か月以内に行わなければならないとされています。刑事補償請求よりも請求期間が大幅に短くなっているので注意が必要です。
 刑事補償請求と費用補償請求は、無罪確定から6か月以内に両方を同時に行うのがいいでしょう。 

補償内容

 188条の6第1項によると、補償の範囲は、「被告人又は弁護人が公判準備及び公判期日に出頭するのに要した旅費、日当及び宿泊料並びに弁護人であつた者に対する報酬限るものとし、その額に関しては、刑事訴訟費用に関する法律の規定中、被告人又は弁護人に関する規定を準用する」とされています。

 つまり、被告人又は弁護人が裁判所に出頭するための旅費、日当、宿泊費と、弁護人の報酬に限定されています。旅費、日当、宿泊費については刑事訴訟費用等に関する法律で細かく計算方法が決められています。弁護人の報酬については同法律に定めはありませんが、法テラスの基準が最低限になるかと思います。

 さらに、弁護人が2人以上のときは、「事件の性質、審理の状況その他の事情を考慮して」主任弁護人その他一部の弁護人の分に限ることができるとされています(188条の6第2項)。なお、弁護人が国選であった場合には弁護士費用は法テラスから(無罪加算も含めて)支払われるので、費用補償の対象にはなりません。

条文上、「旅費、日当、宿泊費と、弁護人の報酬に限る」とされていますが、それ以外の費用について、補償される余地がないわけではありません。私の担当したケースでも私的鑑定に要した費用分の補償が認められたケースもあります。

申立手続

 刑事補償と同様、無罪判決を言い渡した裁判所に対して申立書を提出します(刑事訴訟法188条の3第1項)。
 また、代理人が請求を行う場合、刑事補償請求とは別に委任状が必要です。
 申立の趣旨としては、具体的な金額を明示する必要はなく、「請求人に対し、無罪の裁判に要した費用の補償として相当額を交付するとの裁判を求める」という程度で結構です。

 資料としては、旅費については遠距離の裁判所である場合を除き、自宅からの最短の公共交通機関と金額を説明すれば足り、切符等を添付する必要まではありません。日当・宿泊費については、領収書等が必要です。
 旅費、日当、宿泊費以外のものも認められるケースもありますので、実費明細書のようなものと領収書類一式を添付書類として提出すればいいかと思います。私的鑑定等を行った場合は、その鑑定等が無罪判決のために必要であったことを説明する必要があるでしょう。

申立後の流れ

申立後決定まで

 申し立てた後は、両手続とも共通の流れとなり、まず、申立後比較的早い段階で、裁判所から「求意見書」が送られてきますので、それに回答します。
 通常は申立書に詳細に記載していると思いますので、「申立書記載のとおりで特に付け加えることはありません。」程度でいいかと思います。ちなみに事件番号は、刑事補償が(そ)、費用補償が(な)です。

 あとは裁判所の決定を待つだけですが、決定が出るまでは相当長期間待たされます。無罪が確定した後なので切迫しているわけではなく、裁判所も身柄事件等よりも後回しにするということだと思いますが、通常決定が出るまで6か月~1年程度は要します。

決定後

 決定に不服がある場合、いずれの手続でも即時抗告が可能です(刑事訴訟法188条の3、刑事補償法23条)。
 即時抗告は、決定を受けた日の翌日から3日以内に行う必要があります(刑事訴訟法422条)。
 即時抗告は、原決定を行った裁判所に即時抗告申立書を提出する方法により行います(同423条1項)。決定を行った裁判所は、即時抗告に理由があると判断したときは、原決定を更正することができます(同2項。これを「再度の考案」といいます)。
 補償決定が確定したら補償金を受け取ることになります。先に述べたように、代理人が受領する場合、委任状に受領権限も記載しておくことが必要です。


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