強姦致傷罪での逮捕と処分
昨日(8月23日)、ある俳優が強姦致傷罪により逮捕されたとの報道がなされました。もちろん、詳細に関しては全く不明ですが、逮捕罪名と今後の処分に関連して、若干述べたいと思います。
まず、現時点で、本件の刑事手続の流れを最も詳しく記載している記事としては、東洋経済オンラインの記事(http://toyokeizai.net/articles/-/132777)だと思われますので、まずはこれを引用します(なお被疑者名は匿名にしています)。
警察によるとA容疑者は、23日午前2時すぎ、群馬県前橋市内のビジネスホテルの部屋で、ホテル従業員の40代の女性に対し、手足を押さえつけるなどして性的暴行を加えた上で、女性の右手の指にケガをさせた疑いが持たれている。女性は全治1週間の軽いケガだという。
23日午前3時半頃、被害者の女性の知人男性から警察に対し「知人の女性がホテルの部屋に連れ込まれベッドに押し倒されて乱暴された。犯人はAだ」と110番通報があったという。
A容疑者は、映画の撮影で少なくとも21日からこのホテルに宿泊していたが、捜査関係者によると、22日夜からスタッフらと酒を飲んでいたとみられ、犯行時、従業員の女性を「自分の部屋に歯ブラシを持ってきてほしい」と部屋に呼び出して、手首をつかんで引っ張って無理やり部屋の中に連れ込んだという。当時、泥酔状態ではなかったという。
A容疑者は犯行後、ホテルの部屋に1人でいたところ、通報を受けた警察から任意同行を求められ前橋警察署で話を聞いた結果、犯行を認めたため、警察は逮捕状を請求し、23日午後1時40分に逮捕された。
A容疑者は、従業員の女性と知り合いではなく、逮捕時、暴れたりすることはなかったということで、薬物などの痕跡もなく、調べには淡々と応じているという。A容疑者は、容疑は認めていて「女性を見て欲求を抑えきれなかった」と話しているということだが、「計画的ではなかった」とも話しているという。
A容疑者は24日午前中に送検される予定。
逮捕状の罪名
報道によると、本件は「強姦致傷」による逮捕とのことですが、似たような罪名で「強制わいせつ致傷」というのがあります。
両者の違いは、無理やり行った行為が「姦淫」行為か、それ以外の「わいせつ行為」かによって分かれます。
また、強姦「致傷」の場合、姦淫行為が既遂の場合だけでなく、未遂の場合でも成立します。
そうすると、姦淫行為が未遂の場合、客観的な行為態様が同じであっても、強姦致傷となる場合と、強制わいせつ致傷となる場合があり、その区別は被疑者の主観によることとなります。
本件は、「強姦致傷」での(令状による)逮捕、ということですが、姦淫行為が既遂か未遂か、どのような行為を行ったのかについては、(報道上は)明らかではありません(あまり踏み込んで報道する必要もないと思いますが)。被害者の供述を中心に、被疑事実を構成し、逮捕に至っているものと思われます。
「致傷」の点について
上記のように、強姦「致傷」は、強姦の既遂・未遂を問わず成立します。
他方で、「致傷」が付かなかった場合、姦淫行為の既遂・未遂によって、強姦(既遂)罪と、強姦未遂罪とに分かれることになります。
つまり、「致傷」が付くかつかないかによって、既遂・未遂の基準が異なってきます。
今回の「致傷」の点ですが、報道を前提とすると、被害者の負った怪我は、「手足を押さえつけるなどして性的暴行を加えた上で、女性の右手の指にケガをさせた疑いが持たれている。女性は全治1週間の軽いケガだという。」とのことです。
軽い怪我であったとしても、傷害の結果が生じていることに間違いありませんが、学説では、強姦致傷罪(あるいは強制わいせつ致傷罪)の場合、単なる傷害ではなく、通常の「傷害」よりも重い程度の「傷害」がある場合でなければ成立しない、という見解も有力です。しかし、裁判所はこのような見解を採用しておらず、およそ怪我が生じれば致傷罪が成立するとの立場に、一応は立っています(最高裁昭和24年7月26日等)。
もっとも、実務上は、最高裁判例が古いことや、有力説があることも踏まえ、怪我の程度が軽ければ致傷罪ではなく単純な強姦(あるいは強制わいせつ)で起訴される、という取り扱いがなされることもあります。
「致傷」が付くか否か、強姦致傷になるか単純な強姦かどうかによって、公判手続が大きく変わります。強姦致傷になれば裁判員裁判で審理されますが、単純な強姦の場合は、通常の裁判官だけで審理されます。検察官が起訴するにあたっては、政策的な視点も加味して判断がなされます。
本件では
詳細な事実関係は分かりませんが、一般論としては、逮捕段階の罪名は強姦致傷罪であったとしても、最終処分される段階では、①強姦致傷罪のほか、②強制わいせつ致傷罪、③強姦罪、④強姦未遂罪、⑤強制わいせつ罪、等の罪名に変更される可能性があります。
被害者による被害届が維持されている限り公判請求される可能性は高いですが、その場合でも、罪名によって大きく量刑は変わります。
弁護人は、通常このようなあたりを意識しながら弁護活動を行うこととなります。