残業代請求と訴訟費用(最高裁平成27年5月19日判例)



未払いの残業代を裁判で請求する場合、請求する残業代と同額の金銭を請求することができます。これを「付加金」といいます。

例えば、計算上、過去2年分の残業代が400万円だったとすると、裁判では、この400万円のほか、付加金として400万円、合計800万円を請求することができるのです。

 

これは、労働基準法に違反して残業代等をきちんと支払わなかったことに対する使用者への一種の制裁です。懲罰的損害賠償と似たような意味合いがあります。

ただ、付加金の請求が認められるかどうかは裁判所次第で、必ず認められるというわけではなく、使用者の労働基準法違反の程度が大きいなどの場合に認められるに過ぎません。

 

残業代と併せて付加金を請求する場合、裁判所に収める訴訟費用をどう考えるかという点について、これまで裁判所によって異なってきました。

 

通常、裁判を起こす場合裁判所に手数料を支払う必要がありますが、手数料額は、裁判で請求する金額に合わせて大きくなります。例えば、400万円を請求する場合の手数料は25,000円、800万円を請求する場合の手数料は42,000円、という感じです。

 

裁判で残業代と併せて付加金を請求する場合に、手数料の算定にあたって、付加金の額を含める(=手数料が高くなる)のか含めない(=手数料が安くなる)のかについて、裁判所ごと、あるいは裁判官ごとに見解が分かれていたのです。

 

裁判所や裁判官によって扱いが異なるというのは非常に厄介で、あの裁判官なら手数料が安くなったのに、別の裁判官だから手数料が高くなってしまった、ということが起こります。もちろん、手数料が高くなったったからといって請求を認めてもらえやすくなるわけではありません。

先に述べたように、付加金の請求は必ず認められるわけではないので、代理人としては、裁判官の見解を予想しながら、付加金が認められる可能性と手数料の高低を考慮して依頼者にとって一番有利な選択をしなければならず、非常に悩ましいところでした。

 

しかし、この点について、つい最近、最高裁で結論が出て、問題の解決が図られました。平成27年5月19日第三小法廷の判例です。

この判例は、「付加金の請求の価額は,当該付加金の請求が同条所定の未払金の請求に係る訴訟において同請求とともにされるときは,当該訴訟の目的の価額に算入されない」、つまり、訴訟で残業代と併せて付加金を請求する場合、手数料の計算に付加金額を含めなくてよい、としました。

 

これによって、手数料を気にせずに付加金を請求することができるようになり、残業代請求がやりやすくなります。 

逆に、使用者側としては、今後は残業代請求には必ず付加金請求が付加されることになると予想されるので、きちんとした残業代の支払いがより一層求められることとなるでしょう。

 

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