法人の解散に伴う整理解雇の有効性(奈良地裁平成26年7月17日)



問題の所在

 法人が事業の継続に困難をきたした場合、やむを得ず法人を解散することが考えられます。同族企業など、経営者側と従業員側の人的結び付きが強い場合、解散に伴う整理解雇に従業員の理解を得やすいことも多いですが、そのような結びつきがない場合、解散や整理解雇の効力が争いになる可能性があります。一般的に、株式会社が整理解雇を行う場合、判例上確立された4つの要件を満たす必要があります。

 そこで、一般の整理解雇の場合と比較して、法人の解散に伴う整理解雇の場合、どのような条件を満たす必要があるのかが問題となります。

 

 

事案の概要

 被告Yはタクシー事業等を目的とする株式会社、原告Xはその従業員、原告ZはYの従業員らで組織される労働組合である。

 被告Yと、原告X及びZとの間では、雇用条件等をめぐって対立関係が生じていた。

 そのような状況の中、Yの臨時株主総会において、Yを解散するとの決議が全会一致でなされた。

 Yは、Zに対し、解散の決議がされたこと、従業員全員を整理解雇することなどを通知し、Xらにも解雇予告通知を発した。

 Zはこれに対して説明会の開催を求めたが、Yは文書で、収入の急激な悪化、収入に対する人件費率の高さ等を説明し、説明会の開催は拒否した。

 Zはさらに退職条件等に関する団体交渉を求めたが、Y代表取締役は権限がないことを理由に団体交渉を拒否した。

 

判決の要旨

1会社の解散と解雇

 真実企業が廃止された以上、それに伴う解雇は、原則として有効。 ただし、解散による企業の廃止が、労働組合を嫌悪し壊滅させるために行われた場合など、当該解散等が著しく合理性を欠く場合、解散それ自体は有効であるとしても、解雇は無効となる余地がある。 

2 説明義務

 人員削減等による整理解雇の場合には、従業員のうち特定の者が解雇されることから、その整理解雇の対象とされた理由を説明するなどしてその理解を得る努力が求められるが、本件各整理解雇は本件解散決議に基づく全従業員の解雇であるから、解雇される全従業員に説明すべき事項が本件解散決議の理由に限られることになるものの、本件解散決議はY会社の株主の判断であるため、その理由をY会社の役員らが全従業員に対して詳細に説明するのは困難であると言わざるを得ない。

 

 

ポイント

1 上記①のように、本判決は、法人の解散に伴う整理解雇は原則として有効であると判断し、偽装解散の場合など、極めて限定的な例外に該当する場合のみ、解雇が無効となる余地がある、としています。

 判決は、Y会社の財務状況等を比較的詳細に検討し、そのような例外事由が存在しない、と認定していますが、訴訟において争いになった場合には、役員側の主観のみならず、会社の財務状況や収益性を踏まえ、解散に合理性があるのかという点が重要となってきます。

 上記結論の理由としては「職業選択の自由や財産権の保障といった見地から企業を廃止することが事業者の専権に属する」とされています。すなわち、この局面においては、従業員側の雇用上の地位ではなく、使用者側の自由を優先しています。使用者側の自由が職業選択の自由や財産権といった憲法上の権利に由来するものであることからすると、当然の帰結であると思われます。

 上記例外事由の判断ですが、使用者側の自由が憲法上の権利に由来するものであることからすると、会社の財務状況を踏まえた解散の合理性の判断においても、会社側の経営判断が尊重されるということになると思われます

 また、この裁判例は株式会社に関するものですが、制度上所有と経営の分離が図られている株式会社と異なり、合名会社や弁護士法人の社員、あるいは組合類似の共同経営形態の事業体の場合には、より強く当てはまります。また、合名会社や弁護士法人の社員は、法律上無限連帯責任を負うこととされていることから、性質上、脱退の自由が強く要請されます。法人の解散と脱退とは密接不可分の関係にありますので、株式会社の場合と比較して、より整理解雇が無効となる場合は少なくなると思われます

 

2 手続面においては、整理解雇の4要件を厳格に充足することは必ずしも必要としない、とするのが上記判決の帰結です。

 大阪地方裁判所平成10年7月7日判決は、「解散に伴う解雇を考える場合に、整理解雇の判断基準として一般に論じられているところの4要件のうち、人員整理の必要性は、会社が解散される以上、原則としてその必要性は肯定されるから、これを問題とすることは少ないであろう。また解雇回避努力についても、それをせねばならない理由は原則としてないものと考える。しかし、整理基準及び適用の合理性とか、整理解雇手続の相当性・合理性の要件については、企業廃止に伴う全員解雇の場合においては、解雇条件の内容の公正さまたは適用の平等、解雇手続の適正さとして、考慮されるべき判断基準となるものと解される」としています。

つまり、この大阪地裁判決は、整理解雇の4要件でいうところの解雇手続の相当性・合理性の点のみは、充足する必要がある、としているものであるところ、本判決も同様の方向性のものといえるでしょう。

手続の合理性・相当性に関しては、例えば解散・解雇までに時間的余裕を与えるということは、一般的に必要であると思われます。また、団体交渉等への対応は合理的な範囲内で必要と思われます。他の企業への就職のあっせんまで必要となるか、等については、個別の事情によるものと思われます。親子会社・関連企業等が存在する場合には関連企業内での就職のあっせんにある程度配慮する必要が生じるでしょうし、上記のように、事業者側の解散の自由がより強く要請される合名会社、弁護士法人の役員、組合類似の共同企業形態などの場合は、基本的に必要ないとみるべきでしょう。

 

まとめ

 

 本判決には、上記のほか様々な争点が存在しましたが、解散に伴う解雇の点については、憲法上の権利に由来する事業者側の解散の自由(廃業の自由)を優先する考え方を示したものとして妥当な判決といえるでしょう。

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