面会交流と強制執行(最高裁平成25年3月28日)
はじめに
夫婦が別居している場合や離婚した場合で、子供と同居していない親が、子供と直接会う等の交流をすることを、面会交流といいます。
面会交流の約束をしたものの、相手方が約束を守ってくれない場合、強制執行(裁判所を通じて強制的に面会交流を実現すること)を行うことが考えられます。
通常の強制執行は、裁判所の執行官が直接実力で権利を実現するものですが、面会交流に関する強制執行は直接的な実力行使(=執行官が子供を無理やり連れてくる)にはなじみません。そのため、面会交流の強制執行は、間接強制、すなわち、一定期間内に面会交流を実施しなければ制裁金を払うように命じることによって、心理的圧迫を与える、という方法によることになります。
ただし、このような強制執行をなしうるためには、一定の条件があります。そのような条件を定めたものが、今回紹介する最高裁平成25年3月28日判決です。
なお、面会交流に関する定めは、①離婚協議書、②公正証書、③調停での調書、などで定めることなりますが、強制執行がなしうるのは、②の公正証書、③調停調書の場合だけです。単なる離婚協議書では強制執行はできません。以下の記述は、②の公正証書、あるいは③の調停調書で面会交流を定める場合を前提としています。
事案
Xは、長男との面会交流を求めて調停を行い、結果、Yとの間で、調停調書において以下の条項が定められた。
1 Y(子供と同居している親)は、X(面会交流を求める側)に対して、長男と、2か月に1回程度、原則として第3土曜日の翌日に、半日程度(原則として午前11時から午後5時まで)面接をすることを認める。ただし、最初は1時間程度から始めることとし、長男の様子を見ながら徐々に時間を延ばすこととする。
2 Yは、前項に定める面接の開始時にA県B市のC通りの喫茶店の前で長男をXに会わせ、Xは終了時間に同場所において長男を相手方に引き渡すことを当面の原則とする。ただし、面接交渉の具体的な日時、場所、方法等は、子の福祉に慎重に配慮して、XとYで協議して定める。
3 XとYは、上記1に基づく1回目の面接交渉を、平成22年1月末日までに行うこととする。
最高裁の判断
最高裁は、「非監護親(X)と監護親(Y)との間で非監護親と子が面会交流をすることを定める調停が成立した場合において、調停調書に面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引き渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえるとき」は、原則として間接強制をなしうる、としたうえで、本件では特定不十分で強制執行ができないと判断しました。
最高裁は、上記の調停条項は、特定不十分としたのですが、問題とされている箇所は、青字の部分です。
問題の部分は、以下のとおりに訂正する必要があります。
「2か月に1回程度」 ⇒ 「毎月」、あるいは「毎偶数月」など
「半日程度(原則として午前11時から午後5時まで)」
⇒「午前11時から午後5時まで」 ※あいまいな書き方をしない
「最初は1時間程度から始めることとし、長男の様子を見ながら徐々に時間を延ばす」
⇒削除する
「ただし、面接交渉の具体的な日時、場所、方法等は、子の福祉に慎重に配慮して、XとYで協議して定める。」
⇒削除する
まとめ
強制執行ができる形できちんと面会交流の条項を定める場合には、①面会交流の日時又は頻度、②各回の面会交流時間の長さ、③子の引き渡しの方法等、があいまいにならないように、きちんと特定して記載することが必要です。調停調書の場合は裁判所が文書を作成してくれますが、夫婦間で話し合って公正証書を作る場合には特にこの点を意識して頂く必要があります。