行政不服審査法の改正(平成28年4月)
行政不服審査制度
行政庁(国や地方公共団体)が行った「行政処分」に対して納得できない場合に、不服申し立てをし、上級庁で再度の審査を求めることができます。この手続を、行政不服審査手続といいます。
これまで行政不服審査手続には、「審査請求」という手続と「異議申立て」という手続がありましたが、法改正により、「異議申立て」の制度は廃止され、「審査請求」に一本化されました。
審査請求ができるケース
審査請求は、行政庁が「行政処分」を行った場合に行うことができ、その範囲は広範にわたります。
一般に、審査請求ができる「行政処分」に該当する場合、処分を記載した書面に、「この処分に不服がある場合は、この処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に、○○に対して審査請求をすることができます。」といった「教示」がなされますので、こういった「教示」が記載されている場合は審査請求を行うことができると考えて頂ければいいでしょう。
審査請求がよく利用されるのは、以下のような場面です。
- 生活保護に関する決定(停止・廃止の決定、63条返還決定など)
- 運転免許の停止・取消決定
- 税金の徴収額の決定
- 労働災害・公務災害の認定
主な改正点
審理の公正性向上
-
審理において、職員のうち処分に関与しない者(審理員)が、両者の主張を公正に審理(法9条)
これまでの審査請求では、不服申立の対象となった「行政処分」を行った者(処分庁)と、審査請求の審理を行う者(審査庁)を区別する規定がなく、もともとの「行政処分」の関係者が再審査を担当するケースがあり、公平性を損なうとの批判がありました。
そこで、審査請求における審理を行う者を「審理員」として処分庁から区別し、審理員が処分庁から独立して審理を行うこととなりました。これにより、不服申立を行う者(審査請求人)と、処分を行った処分庁の対立構造の中、審査庁が(一応)中立的な立場で判断する、という訴訟に近い審理方式になりました。
-
第三者機関による点検(法43条)
同様の趣旨で、原則として、有識者からなる第三者機関が審理をチェックを行うこととなります。
審理手続の充実等
これまでの審査請求手続は、お互いに書面を提出するのみで結論が出され、対立当事者である審査請求人と処分庁の見解がかみ合わないまま審理されることが通常でした。
改正法はこのようなことを踏まえ、審理手続を充実させるための手続を新設しています。
- 口頭意見陳述手続の新設(法31条1項)
審査請求人が申立をした場合、口頭で審査請求にかかる事件に関する意見を述べる機会が与えられることとなりました。 - 処分庁への質問権(法31条5項)
口頭意見陳述の際、処分庁に対し、質問等を発することができるようになりました。 - 証拠書類の閲覧・謄写権(38条)
これまで、処分庁から提出された書類・物件の閲覧のみが可能でしたが、審理員に提出された全ての書類・ 物件に拡充され、また、写しの交付も可能になりました。
これまでは、代理人としても審査庁まで行って書類を閲覧し、必要な部分をメモすることが可能であっただけでしたが、これからは全ての書類のコピーの交付を受けることが可能となったのです。これは防御にとって大きな意味のあることです。 - 不服申立期間を60日から3か月に延長(行政不服審査法18条)
これまで審査請求をなしうる期間は60日間とされていましたが、利便性の向上の観点から3か月に延長されました。
ポイント
実務上特に重要なのは、上記口頭意見陳述手続と質問権、証拠書類の写しの交付でしょう。
- 質問権の行使により、実質的に尋問のような形で審査請求人の見解と処分庁の見解を戦わせることが考えられます。処分庁の心証形成だけでなく、将来の取消訴訟をも視野に入れた対応が求められます。
- 質問権は口頭意見陳述手続の中で行われるものであること、口頭意見陳述手続は、審査請求人が「申立」をする必要があること(「申立」をしなければ認められないこと)を必ず押さえておいてください。
参考までに、提出書類謄写請求書と、口頭意見陳述申立書のひな型を添付しておきます。
提出書類等謄写請求書(雛型)
図表・イラストは、「政府広報オンライン」より引用
http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201605/1.html#anc01