離婚事件と慰謝料請求事件の併合(横浜地裁平成25年2月20日決定)



設例

1 Xは、妻YがZ男と不貞をしたとして、離婚や慰謝料の支払いを求めて、妻Yを被告として家庭裁判所に離婚等請求訴訟を提起した。この離婚等請求訴訟で、Z男に対する慰謝料請求を併合できるか。

2 妻Yは、夫Xを被告として、家庭裁判所に離婚等請求訴訟を提起した。夫Xは、妻Yが有責配偶者であるとして離婚請求の棄却を求めた。さらに夫Xは、妻Yとその不貞相手のZ男を被告として慰謝料請求訴訟を提起しようと考えているが、家庭裁判所で妻Yが起こした離婚等請求訴訟と併合審理を求めることができるか。

問題の所在

離婚等請求事件を管轄する裁判所は、家庭裁判所です。

それに対して、慰謝料請求訴訟を単体で起こす場合、これは通常の民事事件ですので、地方裁判所の管轄になります。

 しかし、事例1、2のケースはいずれも、離婚事件についても慰謝料請求についても、争点は妻YとZ男との不貞行為の有無であり、同一の裁判所で併合して審理がなされる方がメリットが大きいといえます。

そこで、本来地方裁判所の管轄に属する慰謝料請求事件について、家庭裁判所での審理・判決を求めることが可能か、という点が問題となります。

人事訴訟法8条1項

人事訴訟法8条1項は、以下のとおり定めます。

家庭裁判所に係属する人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟の係属する第一審裁判所は、相当と認めるときは、申立により、当該訴訟をその家庭裁判所に移送することができる。この場合においては、その移送を受けた家庭裁判所は、当該損害の賠償に関する請求に係る訴訟について自ら審理及び裁判をすることができる。

 この規定は、地方裁判所から家庭裁判所への事件の移送に関する規定の体裁になっていますが、それに限らず、広く家庭裁判所の管轄権に関する規定と解されています。

 要するに、「家庭裁判所に係属する人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟」については、家庭裁判所にも管轄権を認める、とするのが、この規定です。

 そうすると、家庭裁判所が慰謝料請求(=損害賠償請求)を併合審理するためには、当該慰謝料請求が「家庭裁判所に係属する人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟」に該当する必要がある、ということです。

 問題は、この「家庭裁判所に係属する人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟」の意義です。この文言の意義を解釈した裁判例が、横浜地裁平成25年2月20日決定です。この決定は、地裁の決定ではありますが、規定の趣旨から具体例を詳細に述べていることもあり、実務上参考にされている重要な決定です。(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/128/083128_hanrei.pdf)。

裁判所の判断

 まず、上記決定は人事訴訟法8条1項の趣旨について、以下のとおり述べます。

当該損害賠償請求に関する請求は、当該人事訴訟に係る請求の原因である事実を基礎としているため、主張立証の対象となる事実関係が当該人事訴訟と極めて密接な関係にあり、当該人事訴訟と併合して審理することが当事者の立証の便宜及び訴訟経済に合致するとともに、訴訟遅延の原因にもならないことが通常であると考えられることから、民事訴訟136条の特例を定めたものであって、廃止された人事訴訟手続法7条2項ただし書にいう「(婚姻ノ無効ノ訴、其取消ノ訴、離婚ノ訴及ヒ其ノ取消ノ)訴ノ原因タル事実ニ因リテ生シタル損害賠償ノ請求」に関する従前の実務を踏襲するとともに、人事訴訟事件の家庭裁判所への移管に伴い必要な規定を整備したものと解される。

 その上で、人事訴訟法8条1項を以下のとおり解釈します。

 このような法の趣旨にかんがみると、「人事訴訟に係る請求・・・の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求」(法1 7条1項)及び「人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求」(法1 7条2項、法8条1項)とは、人事訴訟に係る請求原因事実と同一であるか、これと強度の関連を持つ事実を基礎とし、これを事由として民事訴訟手続により請求し得る損害の賠償に関する請求を意味すると解するのが相当というべきである。

 そして、具体例として以下のとおり例示します。

 例えば、人事訴訟に係る請求が離婚や婚姻無効である場合、これと併合して審理することができる損害の賠償に関する請求は、

離婚請求をする当事者(離婚訴訟の原告)が求める損害の賠償に関する請求であって、当該離婚請求の相手方と共同不法行為の関係にある第三者を相手方とするもの

離婚請求をする当事者(離婚訴訟の原告)の有責行為を主張して、同請求を争う当事者(離婚訴訟の被告)が求める損害の賠償に関する請求であって、当該有責行為を理由とするもの

婚姻無効請求(婚姻意思の不存在等を請求原因事実とするもの)を争う当事者(婚姻無効訴訟の被告)が求める損害の賠償に関する請求であって、内縁関係の不当破棄ないし婚姻予約の不履行を理由とするもの

をいずれも包含すると解されるし、更に進んで、

離婚請求をする当事者(離婚訴訟の原告)の有責行為を主張して、同請求を争う当事者(離婚訴訟の被告)が求める損害賠償請求であって、当該有責行為と共同不法行為の関係にある第三者を相手方とするものも含んでいると解するのが相当である。

設例の場合

最初に挙げた設例のケースですが、1については決定の①に当てはまり、2については決定の④に当てはまります。したがって、いずれも家庭裁判所に提起することができることとなります。

 

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